- 経食道心エコー (TEE:transoesophageal echocardiography) 解説
- 経食道心エコーによる一般外科の中の心筋の虚血の術中の事前評価:現況と将来
- 術中の麻酔学に基づく経食道心エコーモニターデータのコンピュータ・データベース入力書式
- 術中の経食道心エコーモニタリングに対する品質保証:846回の測定に基づく報告
- 血圧心拍比はヒトでは心筋虚血の指標にならない:心エコーでの評価
- 冠動脈バイパス手術後の心筋活動に対する少量アデノシンの効果
- 非心臓的手術中の心筋虚血検出法の比較:自動化されたST-セグメント分析システム,心電図,経食道心エコーの三者の比較
- 急性心筋虚血の周術期診断
- 心臓手術中の経食道心エコー後の咽頭炎と患者病訴の発生率
- 坐位の脳外科手術:301例で術前に対照心エコー検査を施行した経験から
- 静脈空気塞栓症の検出と循環動態の作用:笑気の有無が関係するか?
0.解説
経食道心エコー(TEE:transoesophageal echocardiography)TEEがはやりである.これが,心臓の動きと大動脈の血流に関して有用な情報ソースであることには疑いない.テクノロジーとしてあたらしい故もありまた私の周囲には自由に使用できる装置がないので,私自身は経験がとぼしいそれ故に,この装置と方法への気持ちを遠くしている.そこで,特集として組むことにして沢山論文を読んでみた.これまでにもいろいろな学会で講演を聴いてはいた.論文もまったく読まなかったわけでもない.しかし,今回まとめて論文を読んでみた
結論はつぎのようになる.基本的には,以前からもっていた意見と同一である.研究機器・臨床診断の機器としての有用性は疑いもない.しかし,ルーチンモニタ−となると疑問が残る.理由は二つ,費用とパターン認識である点である.
費用の点はわかりやすい.現時点で1千万円〜数千万円の装置であるから,手術室に一台そなえるのも大変である.パルスオキシメーターの場合,100万円を切るレベルになって急激に普及するようになったというのが,われわれの認識であるが,この装置がそうなることが望めるであろうか.
もう一つの問題,パターン認識とはこういうことである.パルスオキシメーターの素晴らしさは,動脈血酸素飽和度は高校生でも知っているようなパラメ−タ−で,しかも数字で明確にでる点である.測定値の意味をあらためて勉強する必要はなかった.しかし,エコーの場合は,基礎の画像自体が何を意味するのか,どういう画像がどういう変化に対応するのかを勉強する必要がある.つまり,それを読み取ること自体が医師の診断作業である.そうすると,麻酔の業務の一部として,他の仕事の片手間にできるかはわからない.現在は,専門家が臨床研究のために使用しているが,エコーを読むために医師がもう一人必要などということになったら,これは装置の価格どころの話しではない.とんでもなく費用のかかる装置ということになる.それが普及を阻害するだろう
したがって,今後の課題としては,
1)パターン認識にとどまらず,さしたるトレーニングなしに有用な情報が得られて,活用できる方策
2)価格.特にソフトウェアつきの価格.それは1)の問題とも関係してくるという2点に絞られると思う.
本シリーズに取り上げたものとしては,ルーチンモニタ−としての使用はむしろ少ない.テーマを明確にした研究ないし臨床研究的なものがほとんどである.麻酔のモニタ−に関するマーフィの法則にこういうのがある.
・どんなに使いにくいモニタ−も,推薦する人が必ずいる.
・使えそうもないモニタ−ほど,学会発表が多い.
・論文を書いた人は,そのモニタ−装置を使わない.
TEEがこの範疇に入らないように望みたい.
[諏訪邦夫](MW)
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1.日本語タイトル:経食道心エコーによる一般外科の中の心筋の虚血の術中の事前評価:現況と将来.
原語タイトル,著者,雑誌名,巻,初めと終わりのページ,年:
Intra-operative assessment of myocardial ischaemia during general surgery by transoesophageal echocardiography:Present state and future perspectives Kozakova M, Palombo C, Benanti CF, Giunta F, Distante A, L'Abbate A. Clin Intensive Care. 4(5):232-240, 1993
施設:CNR Inst Clin Physiol, via Savi 8, 56100 Pisa, Italy
[目的]周術期の心筋虚血の早期発見に,経食道心エコー(TEE)を適用する問題の現状と将来の見通しを,心臓手術とそれ以外の一般手術も含めた手術全体で考察する.
[背景]心筋虚血の問題は,臨床的意義が増大している.理由は,第1に,手術患者の中で,高齢者の頻度が高まっているから心臓血管のリスクの高い患者が増している点,第2に,麻酔手技を含めて医療そのものが改善されているので,心筋虚血を早期発見できれば対応できるからである.中でも,心エコー(TEE)は,手術患者の心臓のモニタリングに有力な方法として,今後の発展を期待されている.そこで,術中の心筋の作用と心筋虚血のTEEモニタリングを,感度,特異性,実用性などから概説し,心電図と他の観血的モニターと比較しよう.
[わかること]たとえば,心エコーモニタリング中に,アシナジー(動き不良)部位があらたに検出されれば,心筋虚血の早期診断指標として,信頼度が高い.
[問題点]まず,アシナジー部位がありながら,虚血になっていない問題を検討する.それが本当に存在するなら,TEEの特異性が減ることになり,それだけ有用性も低下するからである.
[可能性]現時点では,心エコーモニタリングの内容は,「動いているかいないか」をみることと,「循環動態のパラメ−タ−を,動きから定量的に計測する」ことの二つに限定されている.今後さらに,アシナジー部位の心室壁の超音波特性を検討することで,心筋虚血の組織的な情報がもっといろいろ確実に得られることになるかもしれないただし,この手法は現時点では研究段階にとどまっており,実用レベルには達していない.
[教育的価値と問題点]心エコーの価値の一つに,教育的価値をあげよう.定量的な数値が得られればもちろんであるが,そうでなくても画面を見ながら学生や研修医を教育できるのは大きな利点で,心音を聴診器で聴くのとは大きな差がある.それと関係するが,麻酔医が心機能モニタ−として術中のエコー・ドプラー評価に関わるのだから,これを勉強しなければならない.
[解説者のコメント]心エコーの総説・解説は数限りなくあるが,その一つである.「心室壁の超音波特性を検討して心筋虚血の組織的な情報を得る」という話しは,いわれればできそうには思えるが,知らなかった.
解説者:諏訪邦夫(MW)
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2.日本語タイトル:術中の麻酔学に基づく経食道心エコーモニターデータのコンピュータ・データベース入力書式
A clinical computer database entry form for an intraoperative anesthesiology-based transesophageal echocardiography monitoring service. Rafferty T, Davis E, Lippmann H, Perrino A, Harris S, Carter J, Prokop E , Cohen I, Ezekowitz M Int J Clin Monit Comput. 10(4):235-245, 1993 施設:Dept Anesthesiology, Yale Univ School of Medicine, Yale-New Haven Hospital, 333 Cedar Street, New Haven, CT 06510, USA
[目的]術中心エコー(TEE)1600例ほどの自験例と,さらに品質保証のための研究への参加経験に,この領域の最近の進歩を考え合わせて,TEEデータのコンピュータ・データ化の必要性を痛感した.そこでデータベースを保持して使いやすくするための,入力書式を開発することにした.この入力書式の意図は,入力が容易で,得られた術中データは文字通り完全に保持し,TEEデータを後から利用しやすいように,ということである.
[背景]経食道心エコー(TEE)は,従来の術中の心臓のモニタリングの補足として,時には代替として使用頻度が高くなってきている.
[研究の場]手術室と,そこで蓄積されたTEEのデータ.
[測定項目と方法]書式は,術中に記述を完了するものとし,まず患者と手術の基本情報を入れ,次にTEE検査に基づく情報を入力する.TEEスキャンは,心臓と大血管を三断面からみる.基底の短軸面,長軸面,経胃による面の三つである.二次元の心エコー,血流を色でわけたデータと,パルスプラーのデータなどで右室と左室の機能,弁の作用と特異な病変を描記する.
[解析]
[結果]まだ,開始しただけで,結果は出ていない.
[結論]心エコーデータは,すぐたまってくる.何らかのデータ書式を使用してコンピュ−タデータとして保持しないと,たまったデータが利用できない.そのための書式を開発した.それが完成すれば有用なはずである.
[解説註]データ書式をつくった時点まででとどまっており,その先の利用の実際までは進んでいない.「書式は,術中に記述を完了する」というのはポイントではあろう.しかし,それが実現できるかはまた別の問題である.
解説者:諏訪邦夫(MW)
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3.日本語タイトル:術中の経食道心エコーモニタリングに対する品質保証:846回の測定に基づく報告.
原語タイトル,著者,雑誌名,巻,初めと終わりのページ, 年:
Quality assurance for intraoperative transesophageal echocardiography monitoring:A report of 846 procedures Rafferty T, LaMantia KR, Davis E, Phillips D, Harris S, Carter J, Ezekowitz M, McCloskey G, Godek H, Kraker P, Jaeger D, Kopriva C,Barash P. Anesth Analg. 76(2):228-232, 1993
施設:Department of Anesthesiology, Yale University School of Medicine 333 Cedar Street, New Haven, CT 06510, United States
[目的]術中に経食道心エコー(TEE)を施行した経験を評価する.
[背景]心エコーは行なわれるが,それがどの位正しく行なわれているか,データがどの位有効かは不明である.
[対象]1989年11月から1991年7月の間の,連続症例846例でのモニターを解析した.
[使用機器]TEE
[方法]経食道心エコー(TEE)を術中に施行した経験を評価した.TEEの頻度は,月に36回(16〜55)で,70%が心臓弁手術症例,40.2%が冠状動脈バイパス術で,手術全体の2.2%である.品質管理(QualityAssurance:Q/A)のプログラムによって,症例の記録とTEEのイメージングの質自体をチェックした.両方とも心エコー専門家が評価判定した.TEEデータベース書式の,どの項目がどの位記入されているかも分析した.
[結果]
1)大きな合併症としては,一過性声帯不全麻痺1例と,グルタルアルデヒド-消毒薬溶液中毒例が1例あった.
2)小さな合併症としては,歯の損傷が一例と咽頭の粘膜損傷が3例あった.
3)Q/A指標の完成度のパーセンテージは,次のようである.
診療記録のドキュメンテーション 88%
データベース書式記入 94%
ビデオテープ録音の完成度 91%
4)TEEデータベース書式の記入度の完成評点は,73%であった.心臓専門医がビデオテープを評価するに際しては,以下の得点システムを使用した.1=優秀2=まあまあ3=劣等
5)二次元心エコーと血流ドプラー(CFD)検査に対する中央値は,2(まあまあ)であった.二次元の心エコー検査〔法〕の15.2%と血流ドプラー検査の20.3%で,イメージの質は劣等(等級3)と判定された.指導医師 26名中,4名に集中していた.
6)心臓病学専門家の検討を,さらに検討したところ,ビデオテープイメージ846例のうち569は,まったく検討されていないことが判明した.検討されてあるビデオテープ277例に対して,項目をどれだけ検討してあるか心臓病学専門家書式の点で,パーセンテージ評価した.記入率は,56%しかなかった.
[結論]このデータからみて,術中のTEEには品質管理が必要で,しかも麻酔医だけでなく,チェックしている心臓専門医も品質管理が必要だということになる.
[解説者注]仕事をする人をチェックする人が必要で,そのチェックをチェックする人が必要ということになる.こういう議論を真面目に行なうところがいかにもアメリカらしいが,滑稽な感じはしないだろうか.これがすべて医療費の高騰として跳ね返ってくる.そんな点をどれだけ認識しているだろうか.そもそも,TEEがこれだけの症例に必要なのか,こんなデータをみるときわめて疑わしい.「医師は医療や患者に必要だから医療行為を行なわず,自分が行なってみたいことを行なう」という格言に当てはまるのか.
解説者:諏訪邦夫(MW)
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4.日本語タイトル:血圧心拍比はヒトでは心筋虚血の指標にならない:心エコーでの評価.
原語タイトル,著者,雑誌名,巻,初めと終わりのページ, 年:
The pressure rate quotient is not an indicator of myocardial ischemia in humans:An echocardiographic evaluation Harris SN, Gordon MA, Urban MK, O'Connor TZ, Barash PG Anesthesiology. 78(2):242-250, 1993
施設:Department of Anesthesiology, Yale University School of Medicine 333 Cedar Street, New Haven, CT 06510, United States
[目的]
血圧心拍比(PRQ;[MAP/HR]:平均動脈圧/心拍数)が心筋虚血の指標として有用か否かを,冠状動脈バイパス手術患者で検証する.
[背景]
血圧心拍比(PRQ;[MAP/HR]:平均動脈圧/心拍数)が,心筋虚血の有無を表現できるという.血圧心拍比は,単純で臨床で使える循環動態のインデックスである.それが1未満になること(PRQ<1)が,心筋虚血の指標として提案されている.心筋虚血の心電図を検討した最近の研究は,このインデックスの信頼性に疑義を提出しているが,明確に否定もしていない.
[研究の場]手術室
[対象]冠状動脈バイパス手術患者50例.
[使用機器]心電図と心エコー
[測定項目]心電図と心エコーでの心筋虚血の指標.PRQ計算.
[方法]冠状動脈バイパス手術患者で,経食道心エコー(TEE)と心電図で心筋虚血を検出し,それとPRQ<1との関係を前向きの研究プログラムで検討した.患者50例中,46例でデータが良好に採取できて解析対象とした.心電図は,第II誘導とV-5誘導をとり,コンピュータでST-部分を分析して虚血を診断する.循環動態データは,2分間隔でたくわえた.気管内挿管後,5.0-MHzTEEプローブを挿入した.心電図記録上の虚血は,ST-部分が1mm以上あらたにうごきそれが1分以上持続すること定義した.経食道心エコー上の虚血の判定は,壁運動が1度以上悪化しそれが1分以上持続するものと定義した.PRQ1が,心筋虚血のECGやTEEの変化を反映するか否かを検討した.
[結果]
1)心電図上の虚血は,10人の患者で230回起こり,その230回のうちでPRQ1であったのは41回しかなかった.
2)経食道心エコー上の虚血は,9人の患者で592回おこり,その592回のうちでPRQ<1になったのは119回だけであった.
3)ECGとTEEに比較して,PRQ<1は感度が低く(21%),予測性も低かった(25%).
[結論]冠状動脈バイパス手術患者で,心電図とTEEを指標とした場合,血圧心拍比が1以下という指標は,心筋虚血を示さない.
[解説者注]PRQ<1が,心筋虚血を招きやすいのは理解できるが,虚血でPRQ<1となるとは限らないというのは,当たり前であろう.心拍数も血圧も,心臓手術中にはずいぶんいろいろな要因で変化する.そうした変化が,みな心筋虚血を表現していると考えること自体おかしい.こういう指標の意味は,実際的な感度や検出力ではない.
1)生理学的な論理的な根拠
2)パラメ−タ−をとることが非常に簡単という点に求めるべきであろう.こんなパラメ−タ−で,少しでも実用性があったら,それで上々というべきである.
解説者:諏訪邦夫(MW)
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5.日本語タイトル:冠動脈バイパス手術後の心筋活動に対する少量アデノシンの効果
原語タイトル,著者,雑誌名,巻,初めと終わりのページ, 年:
Effects of low-dose adenosine on myocardial performance after coronaryartery bypass surgery Owall A, Ehrenberg J, Brodin L A, Juhlin Dannfelt A, Sollevi A Acta Anaesthesiol Scand. 37(2):140-148, 1993
施設: Dept. of Cardiothoracic Anaesthetics, Intensive Care, Karolinska Hospital, S-104 01 Stockholm, Sweden
[目的]冠状動脈バイパス手術後の心筋機能に対して,低血圧を起こさない程度の少量のアデノシン注入の効果を調べる.
[背景]アデノシンは,冠状動脈の拡張を制御する物質として知られている.最近,その薬理作用が注目をあびている.
[研究の場]ICU
[対象]冠状動脈バイパス手術後患者16例.コントロールをおいた2重盲検法.
[使用薬物と機器]アデノシン
[測定項目]動脈カテーテル,熱希釈法肺動脈カテーテル,経食道心エコー図(TEE),12-誘導心電図.
[方法]集中治療室に到着時点で,患者16例(男性14,女性2,平均年齢65歳.幅46〜71歳)を無作為に2群にわけ,少量アデノシン投与群(n=8)と偽薬群(n=8)とした.アデノシン注入速度は,30mug/kg/分で,右室に4時間投与した.データは,動脈カテーテル,熱希釈法肺動脈カテーテル,経食道心エコー図(TEE),12-誘導心電図記録6回である.心電図記録は6回で,注入開始前,注入の間4回,注入終了後1時間の時点である.平均動脈圧は,アデノシン群と偽薬群でどの測定点でも差がなかった.
[結果]
1)心拍数は,アデノシン注入開始から1時間の時点で,15%増加した
2)心係数は,アデノシンの注入の間,およそ50%増加した,対照群に比較して,アデノシン群では心係数は高く,体血管抵抗は低値であった.
3)E/A比(心室充満初期における流入ピーク値と,心房収縮による流入値の比)は,アデノシン群で投与完了1時間の間かなりより高かった.一方,駆出面積率は両群でどの時点でも差がなかった.
4)虚血発作患者の数は,ECGでも左室の局所心壁運動異常(RWMA)をTEEでみても,両群に差がなかった.心電図虚血でアデノシン群に一人,偽薬群に一人いた.また,RWMAではアデノシン群に4例,偽薬群に3例あった.
5)酵素測定による判定では,周術期の心筋梗塞は3例でおころ,うちアデノシン群に2例で偽薬群に1例であった.
[結論]アデノシンを投与して,血管を拡張して心機能を改善し,しかも動脈圧は下がらないようにすることが可能である.エコー・ドプラーによる面積駆出率とE/A比でみるかぎり,アデノシン投与で心室機能が悪化することはない.
[解説者註]地味だが,なかなか念入りな研究である.
解説者:諏訪邦夫(MW)
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6.日本語タイトル:非心臓的手術中の心筋虚血検出法の比較:自動化されたST-セグメント分析システム,心電図,経食道心エコーの三者の比較.
原語タイトル,著者,雑誌名,巻,初めと終わりのページ, 年:
A comparison of methods for the detection of myocardial ischemia during noncardiac surgery:Automated ST-segment analysis systems, electrocar diography, and transesophageal echocardiography Ellis JE, Shah MN, Briller JE, Roizen MF, Aronson S, Feinstein SB. Anesth Analg. 75(5):764-772, 1992
施設:Dept.of Anesthesia/Critical Care, University of Chicago, Box 428 ,5841 South Maryland Avenue, Chicago, IL 60637, United States
[目的]ST-セグメント分析装置で市販されているもの二つを使用して,術中の心筋虚血を検出できるかを検討する.
[背景]麻酔医は,術中はオシロスコープを見ているが,これだけでは心電図の虚血性変化を発見できないことも多い.ST-セグメントモニタ−の自動化によって,こうしたECG変化が検出しやすくなるはずである.一方,TEEが普及して,評価の標準としても採用できるようになった.
[対象]術中に心筋虚血発生のリスクの高い患者の血管手術と非心臓的手術
[使用機器]HewlettPackardST-セグメント自動解析装置とMarquetteST-セグメント自動化解析装置の二つ.
[方法]ST-セグメントモニターを,次の二つの基準モニターと比較した.(a)8つの誘導の心電図を記録して,心臓専門家が解析する.(b)経食道心エコー(TEE)によって,心臓壁の運動異常と肥厚異常を検出するまた,心電図の印刷記録とTEEを比較して,心筋虚血診断能力を調べた.44人の患者で,TEE,多チャンネル心電図記録,オシロスコープで第II誘導とV-5誘導,HewlettPackardST-セグメント自動解析装置を適用し,その44人の患者の中の23人は,同時にMarquetteST-セグメント自動化解析装置を利用して第1第II,V-5の3誘導でモニターした.
[結果]
1)HewlettPackardシステムが検出する感度は,TEEで検出した心筋虚血に対して40%,ECG-診断の虚血に対して75%であった.
2)心電図の印刷記録と心エコーを比較すると,心臓専門医が分析したST-セグメント変化は感度が25%で特異性が62%であった.
3)心電図印刷記録で,心筋虚血診断の基準として,ST-セグメント低下以外にT-波逆転を加えると,感度は40%で,特異性は58%であった.
4)HewlettPackardシステムとMarquetteシステムの両方つけた患者23人では心筋虚血検出はほぼ同様で,感度は80%と100%,特異性は67%と50%であった.
[結論]術中の心筋虚血のモニター所見は,使用する装置や方法同士で合致しないことも多かった.しかし,ST-セグメント自動解析モニターは,心電図のプリントアウトで確認できた虚血性変化は,ほぼ完璧に検出した.この装置は,虚血性変化の警報を発して,医師に詳細な検討を要求する意義は大きい.
[解説者註]手順も得られた結果もしっかりしている.自動解析装置にそれなりの価値があるということで,あとは費用がどの位かということだが,今後いくらでも安くなる可能性があるだろう.
解説者:諏訪邦夫(MW)
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7.日本語タイトル:急性心筋虚血の周術期診断.
原語タイトル,著者,雑誌名,巻,初めと終わりのページ, 年:
Perioperative diagnosis of acute myocardial ischaemia. Hopf H B, Tarnow J Anaesthesist. 41(9):509-519, 1992
施設:Zentrum fur Anaesthesiologie, Abt. fur Klinische Anaesthesiologie, Heinrich-Heine-Universitat, Moorenstrasse 5, W-4000 Dusseldorf 1, Federal Republic of Germany
[目的]周術期におこる心筋虚血の診断に,実用性や費用/効果比からみて何が有用かを検討する.
[背景]冠動脈疾患のある患者の比率が増加して,心臓手術にも,心臓的手術にも大きな影響を及ぼしている.北アメリカでのデータがドイツでも当てはまると仮定すると,年間の手術患者8百万人のうち,冠動脈疾患患者が百万人でうち1万5千人が周術期に心筋梗塞を発症することになる.周術期の心筋虚血と,手術後の心臓の罹患率と死亡率の間には,密接な関連が示されている.したがって,心筋虚血の早期診断と治療が是非必要である.それではどんな手法が使えるであろうか.
[患者の訴え]患者の訴えー狭心症の徴候ーは周術期には頼みにならない.術前には前投薬をうけており,麻酔中はもちろん痛みを訴えず,術後も鎮痛薬が作用しているからである.
[心電図]心筋虚血の術中の検出には,通常第II誘導とV-5誘導でST-セグメントを検討する.ST-セグメントの変化をオンラインで自動分析する装置もありこれで感度は80%程度が達せられている.
[TEE]経食道心エコー(TEE)による局所心壁運動異常の測定は,ECGと比較して心筋の虚血検出のいっそう感度が高い.しかし,この方法を使えないこともある.(1)絶対の基準と比較して確実との確証がない.(2)虚血がなくて陽性にでることがある.左室収縮自体が正常でもいろいろあり他に脚ブロック・高血圧症・循環血液量過多などで陽性にでる.(3)通常の単一面解析では,左室下面と心尖部分の変化が検出できない.これらの部位の虚血は,2平面心エコーならで検出可能かもしれないが,この方法のデータは乏しい.(4)TEEは半ば侵害的で,気管内挿管操作時,麻酔終了時,抜管時などには使用できないことも多い.ところが,心筋虚血はこの時点で発生率が高い.(5)麻酔医だ誰でも,心エコー検査トレーニングの標準のガイドラインをちゃんと果たるというものでもない.(6)高価な点も広範な適用は制約を受ける.
[心臓キモ図法]心臓キモ図法も,方法は非観血的で,前壁の運動をアナログで描記できる.しかし,周術期応用には制約がある.
(1)心臓の壁運動の記録には,換気を間欠性に止める必要がある.
(2)プローブの位置ぎめが難しい.
(3)すでに前壁の心筋梗塞があって,壁運動異常のある場合は適用不能である.
(4)左室前壁の運動異常しか検出できない.
(5)胸郭手術や上腹部手術患者には適用できない.
[肺動脈カテーテル]肺動脈カテーテルは,急性心筋虚血診断の感度が低い.費用/効果比の面から使用は不可である.
[核聴診器]急性心筋虚血時には,左室駆出率が減少する.RI標識赤血球と小さいガンマ-カメラ(核聴診器という名がついている)で測定できるが,RIの問題と費用のために普及しない.
[RPPとPRQ]心拍数と血圧の積(RPP: rate-pressure product)と血圧心拍比(PRQ:pressure-rate quotient)は,心筋虚血の予測には感度が悪すぎる陽性率は10%未満である.
[代謝物測定]代謝性の要素(乳酸,イノシン,ヒポキサンチン)の測定は,パラメ−タ−としては優秀だが,麻酔中の急性心筋虚血発見には意義が低い.そもそも採血に頼る点,結果がでるのが遅い点などが問題である.テクネチウム(99m)ピロリン酸塩は単一光量子放出で,これをコンピュータスキャンで以上の困難が克服できるかもしれない,しかし,この技術の利用は現時点ではごく少ない.
[結論]絶対の方法はない.C/Pからみればやはり心電図であろう.TEEは費用がかかりすぎる.
[解説者註]TEEは費用がかかりすぎる,というのは正直な話しである.今後もっと廉価になるのだろうか.
解説者:諏訪邦夫(MW)
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8.日本語タイトル:心臓手術中の経食道心エコー後の咽頭炎と患者病訴の発生率
原語タイトル,著者,雑誌名,巻,初めと終わりのページ,年:
Incidence of sore throat and patient complaints after intraoperative transesophageal echocardiography during cardiac surgery Owall A, Stahl L, Settergren G J Cardiothoracic Vasc Anesth. 6(1):15-16, 1992
施設:Department of Cardiothoracic Anaesthetics and Intensive Care, Karolinska Hospital, S-104 01 Stockholm, Sweden
[目的]術中の経食道心エコー(TEE)が,手術後に副作用と患者の訴えを起こす発生率を質問表と咽頭所見で解析する.
[背景]TEEがはやりだが,合併症の評価は十分でない.覚醒時に施行する場合は患者自身が訴えてくれるが,麻酔時にはそれがないので,副作用と患者病訴を起こるのは手術後に起こる.その分を考慮せねばならない.
[研究の場]手術室
[対象]術中にTEEを施行した患者約50例(質問表解析)と,別の患者約50例(咽頭検査).
[方法]約50例で,咽頭痛発生率を評価するために,インタヴューして質問表で解析し,さらに咽頭を検査した.手法は2重盲検法で,TEEを施行したかしないかは,患者も評価者もしらない.こちらの群でTEEをうけた患者数は24人で,時間は5.4時間であった.他に同数の患者がTEEなしのままであった.2つのグループで,挿管時間に差はなかった.
[結果]
1)嚥下痛をVAS(visual analog scale)で評価したところでは両群に差はなかった.
2)嘔吐の発生率や,抜管から最初の経口摂取までの経過時間も,両群に差はなかった.
3)咽頭検査でも,両群に差はなく,TEEに起因した重大な合併症はなかった.
4)嚥下痛をともなう咽頭炎は,今回の患者では重要な問題でなかった;
5)嚥下痛と咽頭炎は,TEEより気管内挿管に原因があることを示すものであろう.
[結論]術中のTEEが,手術後に有害な咽頭の障害を起こすことはない.
[解説者註]咽頭痛と咽頭の視診というだけのパラメ−タ−であることに注意が必要である.また,例数が各群25例程度であるから,頻度が高いものしかチェックできない.何千例も施行している人がいるのだから,そういう群での合併症検討もほしい.
解説者:諏訪邦夫(MW)
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9.日本語タイトル:坐位の脳外科手術:301例で術前に対照心エコー検査を施行した経験から
原語タイトル,著者,雑誌名,年,巻,初めと終わりのページ:
Sitting position for neurosurgery:Experience with preoperative contrast echocardiography in 301 patients J Neurosurg Anesth 6(2):83-88 1994
施設:(Department of Anesthesiology, University of Graz, 2nd Medical Department, LKH Graz, Department of Neurosurgery, University of Graz, Graz; and Department of Anesthesiology,LKH-Klagenfurt,Klagenfurt, AUS.)
[目的]坐位手術の予定されている患者で,卵円孔開存の発生頻度を探る.
[背景]静脈に空気が入っても,ふつうならこの空気は肺でトラップされるはずである.それが大循環,なかんずく脳の塞栓を起こすのはいわば逆説的な空気塞栓症というべ気だが,その原因としては卵円孔開存(PFO:persistingforamenovale)が最も重要度が高い.
[研究の場]
[対象]脳神経外科手術を坐位で行なう予定の患者301例.この他に,坐位以外で手術した患者59例.
[使用薬物と機器]造影剤,エコー装置
[方法]脳神経外科手術を坐位で行なう予定の患者301例で,術前に胸の外からエコー造影を施行し,右左シャントの存在する頻度を探った.造影剤を投与して,それが右心から直接左心にあらわれる速度をみた.末梢静脈に造影剤を注入後,5心拍以内に左心に造影剤の出現したことを根拠とした.末梢静脈に造影剤を注入後,6心拍以降に出現した場合は肺内シャントとした.
[結果]
1)心エコー検査で,評価できたのは285例だった.
2)285例中72例(25.2%)で,造影剤を注入後,5心拍以内に左心に造影剤が出現し,PFOの診断が下された.
3)285例中11例(3.9%)で,造影剤を注入後,6心拍以降に左心に造影剤が出現し,肺内シャントの診断が下された.
4)静脈経由の空気塞栓症(VAE)は,坐位手術患者では27.4%,226人に発生した.
5)坐位以外の患者59例では,まったく起こらなかった.
[結論]脳外科患者を坐位手術を行なえば,右左のシャントが4人に一人程度はあるので,逆説的な空気塞栓症(PAE)のリスクがある.このリスクを減らすには,坐位手術自体を避けるべきである.
[解説]PFOの発生率も,坐位手術での空気塞栓の発生率も,すでに報告されている.その数値とも一致している.この研究の価値は,実際に坐位手術を施行する患者であらかじめPFOの発生率を決めてから手術を施行した点にあるだろう.論理的には,別個の研究でも同じことではあるが,やはり同一群で研究すれば説得力がある.
解説者:諏訪邦夫(MW)
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10.日本語タイトル:静脈空気塞栓症の検出と循環動態の作用:笑気の有無が関係するか?
原語タイトル,著者,雑誌名,巻,初めと終わりのページ, 年:
Detection and hemodynamic consequences of venous air embolism:Does nitrous oxide make a difference? Losasso TJ, Black S, Muzzi DA, Michenfelder JD, Cucchiara RF Anesthesiology. 77(1):148-152, 1992
施設:Department of Anesthesiology, Mayo Clinic, Rochester, MN 55905, United States
[目的]亜酸化窒素の使用によって,空気塞栓の際のモニタ−の感度(すなわち,検出の閾値)が変わるかどうか,また循環動態の悪化がおこるかどうかを決める.
[背景]亜酸化窒素(笑気)は血管内の空気の体積を拡大するから,モニターの感度を改善するかもしれない.循環動態は悪化するかもしれない.それなら,空気塞栓症を発見して,循環動態の悪化も検出しやすいかもしれない.
[研究の場]研究室
[対象]イヌ
[測定項目]
ドプラー超音波装置,経食道心エコー,呼気終末2酸化炭素,肺動脈圧の4つのパラメ−タ−
[方法]イヌ21頭で,心臓の前においたドプラー超音波装置,経食道心エコー呼気終末2酸化炭素,肺動脈圧の4つのパラメ−タ−をモニターして,空気塞栓の影響をしらべた.静脈内に,空気を0.005と0.4ml/kg/分で注入した.麻酔はアイソフルレンかアイソフルレン+笑気とし,いずれも全量で1MACとした.笑気濃度は50%(第1群)と75%(第2群)である.各モニターで,笑気の有無でパラメ−タ−が陽性になるに必要な空気注入量を算出した.陽性反応は,次のように定義した.1)ドプラー超音波では,ピッチの変化が明白に聞きとれること2)TEEでは,右心室内か流出路の中の空気泡を示す濃度の変化3)ETCO2の)の2mmHg以上の減少4)平均肺動脈圧の3mmHg以上の増加第3群は,手順が少し異なる.空気を0.1と0.8ml/kg/分で注入し,麻酔はアイソフルレンかアイソフルレン+笑気とし,いずれも全量で1MACとした.笑気濃度は50%である.ドプラーが空気を検出した時点で,亜酸化窒素投与を中止し,空気注入は平均動脈圧(MAP)が10mmHgだけ低下するまで継続した.
[結果]
1)TEEとドプラーでは,陽性反応の出るのに必要な空気の量は,亜酸化窒素の有無で影響がなかった.
2)しかし,ETCO2の変化と肺動脈圧では,笑気があると濃度が50%でも75%でも,酸素の場合と比較して,少量の空気塞栓が検出できた.
3)第3群では,動脈圧を10mmHg下げるに必要な空気の量は,笑気の有無で差がなかった.
[結論]亜酸化窒素の投与で,ドプラー超音波装置と経食道心エコーでみる空気塞栓検出の感度は改善されない.しかし,呼気終末2酸化炭素と肺動脈圧モニタリングの感度は改善する.イヌをアイソフルレンで麻酔して,空気塞栓がおこっても,ドプラーが空気を検出した時点で笑気を切れば,最高0.8mlまでの速度で空気の持続注入しても,循環動態の障害はおこらない.
[解説者註]厳密な実験だが,さて解釈は? ドプラーとTEEは,微量の塞栓そのものを検出するのに対して,PETco2と肺動脈圧は空気の量の多い場合に,その影響の方を検出するということであろう.
解説者:諏訪邦夫(MW)
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